序章 真っ白な闇を歩き続けて

私の一番古い記憶は、夢なのか、現実なのかも分かりません。もしかしたら、自らが作り上げた空想の出来事なのかもしれません。

その記憶の中の舞台は、幼いころに通っていた幼稚園にほど近い道路の真ん中でした。
きっと同じ幼稚園に通う友達と遊んでいたのだと思います。 追いかけっこをしていたのか、ケンケン遊びをしていたのか、もうはっきりとは覚えていませんが、とにかく一緒に遊んでいるはずでした。だけど、気がつけば、私はひとりポツンと立っていたのです。他の子達は楽しそうに遊んでいますが、私にはよく分かりませんでした。ひとりで何もできず、声も出せず、ひとりで立っているだけです。 自分がそこにいるということに、何とも形容しがたい「違和感」があったのです。
遠くで友達が遊んでいる声と、空き地の草を揺らす風の静かな音がけが、私の周りを包みこんでいました。
「私は、ここにいてもいいのかな?」
「私は、どうしてここにいるんだろう?」
自問自答を繰り返すだけ、繰り返して、その記憶は途切れ、終わりを迎えます。

私は、いつも白い闇の中にいました。
黒くなることも、赤くなることも、青くなることも、どんな色に染まることもできず、ただ生きていくだけの毎日。
それなら、いっそ空気のように消えてなくなってしまえばいい。そう考えるのは簡単ですし、とても楽でした。しかし、どこか冷静に分析している私がいました。
「そんなに綺麗さっぱりいなくなることなんてできない。」
私の抜け殻を見た人は、心に傷を負ってしまうかもしれない。私がいなくなったら、周囲の人はどう思うだろう。私がいなくなったら、きっと家族は悲しむだろう。 私は、何度も刃を自分に向けてきました。だけど、その後のことが頭をよぎり、やめざるをえなくなりました。そして、数え切れない月日を過ごしてきたその先に辿り着いた結論、それは「死ねないのなら生きるしかない。」ならば「死ぬ気で生きるしかない」ということでした。 不思議なことに「死ぬ気で生きる」と思えば、大抵のことは乗り越えられました。そうすることで、きっと怖いものなんてなくなってしまうのでしょう。

私は、いまもずっと白い闇を歩き続けています。これからも、きっと天寿をまっとうするまで歩き続けるのだと思います。
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