第1章 自閉症スペクトラムとは

自閉症スペクトラムの分類

以下に記載する内容に関しては、アスペルガー症候群に特化したものではなく、他の軽度発達障害や自閉症も共通する分類です。
ここでは杉山登志郎、岡南、小倉正義著の「ギフテット 天才の育て方」の載っている分類を参考としています。 この分類は、先述の3つの主な症状とは異なる視点から見たものですが、発達障害を理解するには非常に分かりやすく、 それぞれの特性を活かす大きな手掛かりになるものと考えています。
まず、分類の説明をするまえにこの本に書かれていた興味深い考え方を紹介します。
【発達障害=発達凸凹+適応障害】
日本語は発達障害に関する用語がもともと乏しく、これが大きな障害となってきました。ここで特に強調されていることは、 発達障害において典型的に認められる認知の凸凹は、決してマイナスとは限らないということです。
先述のアスペルガー症候群と考えられている偉人たちからも、それは容易に想像がつきます。 また、一般の認知の凸凹の部分は、特に成人に至ったときに子供時代の活発な代償機能の働きもあってか、社会的適応障害がないか、 もしくは非常に軽微といえるところまで到達するケースが少なくありません。軽度発達障害の診断の条件としては、社会的な適応が損なわれていることが 挙げられており、何らかの認知の凸凹がありながらも、なんとか社会生活をこなしている大多数の人々が、適応障害がないことから診断基準から外れること になってしまいます。 しかしながら、これらの人々は現在において適応障害が存在しないだけであって、それなりのサポートが必要である場合が多いのです。 このような場合では、良好な適応を維持するためには、むしろ生来の認知の凹凸や偏りが存在することを積極的に「診断」することがプラスに働くこともあります。

これは、誰しもが持っている発達の歪み、凸凹をマイナスの面ばかりに囚われるのではなく、プラスの面で見ていこうとする非常に積極的な試みであると思います。 発達障害については、とても診断が慎重になっており「発達障害の特性は持っているけれど、診断までには至らない」ため、障害者手帳の取得も難しく、 適切なサポートを受けられない人々が多く存在すると考えられています。現在、「障害」を「障がい」とする流れが主流となっていますが、私は「発達障がい」というよりは、 むしろこの「発達凸凹+適応障害」としたほうが、気持ちが楽になる感じがしています。そして、不思議なほど凸凹人生を楽しめるような気分にもなりました。

さて、ここでは上述した「発達障害の特性は持っているけれど、診断までには至らない」ケースも含めた分類をご紹介したいと思います。
自閉症の対人関係による類型には、ローナ・ウィングによる「孤立型」「受動型」「積極奇異型」の3つのタイプが有名ですが、「ギフテット 天才の育て方」では血液型のようなユニークな分類をしています。 このより身近で分かりやすい分類方法を、私はとても気に入っています。

●アスペA型[Adjustable type]-適応型の高機能広汎性発達障害
このような適応型なグループは、未診断の成人の中に少なくなく、私たちの周りにもたくさんいると考えられます。 大学の教官やIT関係の技術者はもちろんのこと、法律家、建築家といった専門職、されには医師や教師のなかにも、少なからず存在すると考えられています。 このグループの人は、自閉症圏の認知の特徴をむしろ活用している人もあり、また他者をまねることで適応的にふるまうことも可能です。 つまり、一概にハンディキャップをもつとは言い難いところがある、というのがこのタイプの人たちの特徴です。
しかし、それでも生きにくさを感じていたり、自分が他人の気持ちを汲みとれないということを人知れず悩んでいたりする面もあります。

●アスペB型[Bothersome type]-不適応型の高機能広汎性発達障害
B型 [Bothersome(困った)] は、時には問題行動を起こす非社会的な群です。 未診断、未治療で、しかも非常に優秀な中にこのタイプが散見されます。この群の特徴は、人の話を全く聞けないことです。自分のこだわりが強く、それに固執し、実現させてしまいます。 周囲のより社会的な人々は、困ったものだと思いつつも、こういう場合、極論を正論として述べるほうが強いに決まっていますので、それに押されてしまい妥協を重ねます。 その結果、アスペB型の人のこだわりの通りになるので、ますます増長させることになります。 このような人に対しては、『あなたは優秀ですが、実はアスペB型です』ときちんと直面化することが、周囲の人たちのためにも、また本人のためにも必要であると思います。

●アスペO型[Odd type]-奇異だがそこそこやれているタイプの広汎性発達障害
O型は、ウイングの積極奇異[Active but odd]にならってodd(奇異な)となり、奇異さが目立つ群となります。
準良好の方にこの群が多いとされます。悪意はなく、またそれなりに頑張って社会に合わせようとしているのですが、ときどき気づかずに非常識を繰り返してしいます。 良かれと思ってしたことが、実は常識とはかけ離れていて、周囲の度肝を抜く、なんて覚えはありませんか?
このような方に対しても、「それは非常識だ」と決めつけるよりも、「あなたの行動は、アスペO型にしばしばある非社会的な行動の一つです」と説明するほうが、 もしかしたら受け入れやすいのではないかと思います。

●アスペAB型[Abused type]-迫害体験が加算された被害的な広汎性発達障害
最後は、問題のAB型です。これはAbused(迫害された)であり、不幸にして周囲からの迫害体験を重ねて受け、そのために被害的な状況が固定してしまった群です。 実はこの群は、触法に至ってしまう方々の中に典型的に認められます。これらの法に触れてしまった方々が、高機能広汎性発達障害の診断を受けたとしても、 一般的なアスペA型とは異なったタイプであること、しかしそれも不幸な巡りあわせによって生じたもので、本人だけの責任に帰すのは気の毒であることが、アスペAB型と呼ぶことで、 より明らかになるのではなないでしょうか。

この分類を提唱した筆者 杉山登志郎氏は、こう締めくくっています。
「筆者の提案は、同じアスペルガー症候群、高機能広汎性発達障害でも、臨床的に非常に大きな幅があり、しかも未診断、未治療の方々の中にも広がりがあることをきちんと見ていくことである。 発達障害ではない発達凸凹の存在を、社会的に認めていくことにもなる。我々の周りにも、多くの、特にアスペA型の方が存在し、社会に貢献しているのである。」

アスペルガー症候群は一般に知られるようになりましたが、まだまだ偏見が多く理解されるには至っていません。
いろいろな視点から障害の理解へと繋げてゆくことが、これからの私たちには必要なのだと感じています。
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